軍事評論家の江畑謙介氏が死去

偉大な先生を失ってしまった。

 軍事評論家の江畑謙介(えばたけんすけ)さんが10日、呼吸不全で亡くなった。
 60歳だった。告別式は近親者で済ませた。後日、お別れの会を開く予定。喪主は妻、裕美子さん。
 軍事情勢や兵器の専門家で、1991年の湾岸戦争報道で解説者としてメディアに登場。軍事技術や安全保障に関する執筆活動に加え、防衛省の装備品契約をチェックする第三者機関「防衛調達審議会」委員などを務めた。2005年から拓殖大海外事情研究所客員教授

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20091012-OYT1T00483.htm

江畑氏は、兵器レベルについての確固とした知識を持っていた。工学系の出身者*1ということもあって、工学全般に関する基礎的なセンスがあったのだろう。

江畑氏は兵士一人、小銃一丁についてまで通り一遍知っていたので、個別の事件について適切な解説ができるのみならず、より大きな国際情勢などのテーマについても、必要に応じて分析の粒度を落とすことで多角的な評論ができたのだと思う。

例えば米軍再編について、江畑氏は『米軍再編』『<新版>米軍再編』を著している。著書で氏はまず、米国の公的な資料から米軍再編の基本方針について解説し、次に○○国駐留の第△△部隊が……という具合に、個々の部隊や兵器の移動について記述されていく。近年の技術的な動向についても適宜補足される。

公的資料をベースにした視点が提供されると同時に、個別の事実が積み上げられて、全体として巨大な米軍再編の全容が描き出されている。非常に説得力がある。事実に基づいた多角的で冷静な分析は、江畑氏の真骨頂だと思う。

もうひとつ。江畑氏には軍事問題に真摯に向き合う専門家としての誠実さがあった。分からないことには「分かりません」と言い、間違った時には「申し訳ありません」と謝罪できるだけの素直さがあった。だからこそ、凡百の評論家やコメンテータとは一線を隔した信頼感があったのだと思う。

こう、過去形で語らざるを得ない事は非常に残念でならない。

これからは、時事問題について誰の解説を頼りにすればいいのだろう? 誰なら信頼できるだろう? 知る限りでは森本敏氏ぐらいしか思いつかないが……氏はどちらかというと安全保障の専門家であって、兵器レベルまでをカバーするような方ではない気がする。

かといって小川和久氏はちょっとクセがあるので、江畑氏の代わりというわけにはいかない。

余人をもって代えがたいとは、まさにこのことか。ご冥福をお祈りします。

*1:上智大大学院理工学研究科博士課程修了